Geography / Boundaries
1992年冬に撮影した自分の原点ともいえる作品です。写真の平面性を追求し、視線が奥へ行かない、紙の表面でストップしてしまう作品。最初は都市を、望遠レンズを使って平面的に、遠近感がなくなる様に撮っていましたが、最終的には平面をそのまま平面的に撮るという単純な方法になりました。
撮影した場所は、東京湾岸の埋め立て地にある舗装されていない巨大な空き地で、現在はショッピングモールが建っています。何もない場所で、エメラルドグリーンに変色した水たまりには渡り鳥が集まり、砂利の間に卵を産んでいました。当時日本で流行っていたニュー・トポグラフィクスの影響もあり、広大で空っぽな空間を撮影している時、その場所の一部に鉱物質な地面がある事に気づきました。金属的で所々が錆びており、石灰のような物質が表面に浮いているのがおもしろく感じました。細部を徹底して捉えるために、撮影には大型カメラ8×10を使用し、フラットに光がまわる明るい曇りの日を選び、影が出ないようにしました。そして、表現する要素を出来るだけ少なくすることで逆に様々なイメージが生まれる写真にしようと思いました。都市の下にある地面がそのまま、都市を上から見た衛星写真のようなイメージに変わる。埋立地の地面がどこかの惑星の表面のようにも見えてくる。遠近法を否定した、ただの平面が様々な距離やイメージの揺らぎを生み出しています。
Boundaries
2016年に皇居周辺を撮影した際、海に面していた境界的な場所から江戸が発展していったことを知り、都市の境界について考えるようになりました。近所に、かつて東京湾に面し海と陸との境界だった崖があり、そこを題材にしています。現在海は埋め立てられ、その崖は大きな道路に沿って広範囲に渡り広がっています。崖といっても様々な草木が生い茂っており、一見すると森のようにも見えますが、全く奥行きを欠いており平面的で、垂直に迫り上がっていく森です。そこには境界性の強い場所に特有な独特の雰囲気が漂っているように感じます。その感覚を裏付けるように、大きな神社や鳥居、祠、お墓のような、この世とあの世、生と死といった境界性を感じさせる象徴的なものが点在しています。今回展示している作品では、複数の境界の空間・時間は混じり合い、平面上で互いに干渉しながら上とも下ともいえないゆらぎを生み、不安定な空間を作っています。それは境界を写すと言うより、境界を作ると言う方が近いかもしれません。