Boundaries

2019
Boundaries

2016年に皇居周辺を撮影した際、そこがかつて海に面した境界的な場所で、そこから江戸/東京が発展していったことに興味を持ち、都市の境界について考えるようになった。私の住むエリアは起伏に富んだ地形で崖のような切り立った場所が多く、かつて東京湾に面し、海と陸との境界だった崖が数キロにわたって存在している。このシリーズでは主にその場所を題材にしている。崖といっても現在は様々な草木が生い茂り、一見すると森のようにも見えるが、奥行きを欠き平面的で、垂直に迫り上がっていく森だ。そこには境界性の強い場所に特有な独特の雰囲気が漂っているように感じる。その感覚を裏付けるように、大きな神社や鳥居、祠、お墓のような、この世とあの世、生と死といった境界を象徴するものが点在している。

最初は境界のポートレートを撮るように、1点1点撮影しプリントしていった。ある時、白枠を切り落とした数枚のプリントを無造作に投げ出していたところ、プリントがずれ重なって作り出す空間に気づいた。違う時間に違う場所で撮影されたプリント同士が干渉しあって美しい時空間を作りあげている。意識的に作られた1枚の写真に対して無意識に現れたこの周縁の美に強く惹きつけられた。複数の写真が干渉しあって作り出すこの時空間をコンピュータで再現してみたらどうなるか、といった実験からこのシリーズは生まれている。最初は複数のプリントの端がずれて重なるイメージで、直線的に画像データを切り抜き重ね合わせていたが、途中から木の葉や枝、草花などのすでにある形をレディメイドとしてそのまま利用しレイヤーを重ね、組み替えていく方法に変化していった。コラージュの一種であるかもしれないが、リコンバイン(recombine 組み替える)という言葉がより適切であると思う。コラージュでは、イメージが積み上げられ徐々に全体が完成していくが、リコンバインは制限された種類の各データの組み替えによる作業で、全体のイメージが突然予想もしない形で変化することがしばしば起こる。

平面上で、異なる場所や季節は混じり合い、互いに干渉し、上とも下ともいえないゆらぎをはらんだ複雑な時空間が生まれていく。それは感情移入しやすい一般的な写真の遠近法とは違った多層的、多時間的でリアルな時空間であり、感情移入を拒む画像は写真の物質性をあらわにする。