The Origin of Tokyo

20162017
The Origin of Tokyo

現在まで主に東京の東側をテーマとしてきたが、今回は東京の中心部を題材にしている。私が生まれ幼少期を過ごした東京東部を中心としたシリーズに皇居周辺の風景が加わることで、従来の作品に歴史のレイヤーが加わったように感じている。タイトルの「The Origin of Tokyo」とは東京の発端である江戸、その最初の拠点としての江戸城が作られた場所を指すと同時に、東京全体の根底にある地形や土地の性質をも示している。土地に影響を受け、人は都市を作り、土地そのものの歴史と人の営み、街の歴史が合わさって地霊ともいうべき特有の雰囲気を作り上げている。originとは底にあり人間に影響を与え続けているものである。

表面上の変化が激しい現代の都市にあって、皇居ほどかつての土地の面影を宿しているところは少ないだろう。縄文海進期において武蔵野台地の端にあり海に面し、江戸の町を作った徳川家康が来た時も、江戸城は海岸の波うち際にあったと言われる。まさに境界の場所。東京はこの境界から生まれている。雄大な時の流れにある富士山や山並み、何もない荒野のような場所から恐ろしい進化を遂げた、武蔵野台地に広がるビル群、土地の原型を生々しく保ちながら進化の流れから逆行するかのように森に帰っていく皇居=旧江戸城。この複雑な時間の流れを東京は生きている。

家康のブレーンだった僧、天海は江戸の設計にあたり、江戸城の鬼門から裏鬼門にかけて宗教的な結界をはった。鬼門、裏鬼門といった物語は現在の私たちから見たら縁遠い非科学的なものかもしれないが、そのストーリーが土地や自然の性質、歴史から生まれており、それに則って東京の前身たる江戸が作られている以上、現在の都市計画にもどこか影響を与えていても不思議はない。東京スカイツリーが皇居の鬼門の方角に出来て、東京タワーが裏鬼門の近くの、かつては海に面していた霊的な場所にあるのも土地の持つ物語の作用かもしれない。そして東京はその物語の上に成り立っている。

写真が撮られた非常階段や屋上は境界である。日常と非日常の間。天と地の間。数歩前に進めばこの世からいなくなるような、この世とあの世のあわいにある危うさを秘めた場所でもある。高さも航空写真や衛星写真のように高いとは言えない中間的な高さの場所から、昼と夜の境界の時間帯にある街を眺めると都市の広がりと細部、生活の痕跡、土地そのものが内包するダイナミックな力のうねり、立ち上がってくる特有の雰囲気(地霊)が捉えられるのである。